残暑

 

貴方のその腕で、首が千切れるくらいの力で私の身体をそっちに葬ってくれませんか。腕が外れるくらいの勢いで私を引っ張って、押し倒して、訳わからないぐらいにぐちゃぐちゃにしてはくれませんか。

ずっと祈っています。誰かが私を破茶滅茶に壊してくれることは金輪際の人生ではあり得ないけれど、おそらく、毎度毎度、そのどこを見据えてるのかわからない瞳を覗き込むたび、私のことをぼろぼろにしてくれるのではないか、あるいは、柔らかな微笑みで看取ってくれるのではないかと、あなたが夏の暑い日に、私の眠っているかもしれない墓にそっと、菊の花を一輪でも刺してくれさえすれば、わたしはずっとそう思って生きてきました。

夏は人間を迷わせる。正気ではいられなくなる。

毎朝ベタつく身体で起床しては、孤独であることを感じて安堵するのに、夜になると誰かしらにもしもしと言っている。

セミの死骸を踏まないように四十五段の階段を登る、いっぱい死骸が転がっているのにセミの声が無くなることはなく、だらだら流れる汗にはあ、となりながらも、その声に少し希望を見出した。